
この記事では、子どもの「行動」や「反応」、「学習」に関する疑問について、「心の理解」という観点から、心の機能や仕組みの基本的な知識に基づいた情報を発信していきます。
目に見えない「心」について知ることが、
「この子の中で、何が起こっているのか」
「この子の世界には何が見えているのか」
について考える土台を持っていくことにもつながります。
そうした知識の土台が、たった一人の「その子」と関わりを築いていく、ふとしたヒントになるかもしれません。
こんにちは!Michibikiゼミの渡辺です。
早くも3月ですね。間も無く年度の終わり、進級や進学など各々の節目を目前にした季節です🌸
雨が止んで春らしい風が吹いてきて、また今の時期は花粉症状に悩む方も多いですね。
そんな3月の初め、今回は「やる気」について考えていこうと思います。
毎日、何をするにも「やる気」に左右される私たち人間ですが、なかなか腰が重たいものです。
当塾としても、「勉強しなさいと言わないとやらない」 「ご褒美がないと動かない」など、
「学習面でのやる気」についてご相談をいただくことも多いです。
では、そもそも、「やる気」とは何でしょうか。
これまで、「心の機能」に関する記事で見てきた「実行機能」は、行動するために必要な、様々な認知や調整、注意、集中、判断、指示などを担う「脳の機能」でしたね。
では、「やる気」は、私たちの体のどこからやってくるのでしょう?
実は、「心の仕組み」を知ることで、なかなか思い通りにならない「やる気」も扱いやすくなることがあります。
「やる気」は、「根性論」や「意志」「努力」といった切り口から語られることも多いですが、もちろんそういった側面がないわけではありません。
しかし今回は、「気持ち」や「姿勢」ではなく、心理学や脳科学の視点から、「根性論」とはまた違った視点から「やる気」について考えていきます。
「やる気」の仕組み
私たちが普段、「やる気」と呼んでいるものの正体は、脳内で分泌される「ドーパミン」という神経伝達物質の働きによるものですです。
それはいわゆる「報酬系」という神経基盤への刺激によって起こります。
脳の中心部には「側坐核(そくざかく)」という小さな部位があります。
ここが活動し、ドーパミンが放出されると、人は「何かをしたい」「ワクワクする」という意欲を感じます。
「側坐核」はエンジンが点火するところで、「ドーパミン」はガソリンのようなものかもしれません。
この「ドーパミン」、実は「目標を達成」して、報酬を実際に得た時だけでなく、
「これから良いことがありそうだ(報酬を予測した時)」に、もっとも強く分泌されるのだそうです。
例えば、ゲームに熱中できるのは、「この敵を倒せばレベルが上がる(報酬)」という予測が明確で、比較的すぐに結果が出るからだと考えることができます。
一方で勉強は、「頑張っても問題が解けるかわからない」という不確実さ、「テストの結果はまだ先」という時差など、報酬の期待をしづらい取り組みだといえます。
また、この「予測」が、学習に困難さを抱えるお子さんの場合では、過去の失敗体験から
「やってもできない(報酬は得られない)」という予測を、「学習している」ことが少なくありません。
自信を失ってしまっている状態ですね。
そういった場合、どれだけ叱咤激励しても、「報酬系」は刺激されず、エンジンはかからない状態になります。
こうした「やる気」の問題は、「人格(パーソナリティ)」の問題と混同されやすく、「怠惰(なまけている)」と見られたり、「やる気のない性格」のように、性格と紐付けて認識されてしまうこともしばしばあります。
しかし、この「やる気がない」という状況を、価値判断や人格などと切り離して「状態」として考えてみてはいかがでしょうか。
「結果への『期待』を持てない・持ちづらい(ドーパミン欠乏)」の状態は、なかなか本人の意思や努力だけでは変えづらいものです。
走ることに例えてみましょう。「走る意思」がないということと、「走る体力」がないことはまた別の問題です。
そのように「何が問題か」を根本的に考え、「分けて」考えることが、心理学でできることの一つのメリットだとも言えます。
この「やる気」の正体について、もう少し詳しくみていきましょう。
「やる気」について、 現在の研究でわかっていること
近年、「動機づけ」や「神経経済学」といった分野の研究では、「やる気」に関するいくつかのポイントが明らかになっています。まずはそれらについてみていきましょう。
脳は「コスト」と「メリット」を瞬時に計算する
脳の中には行動のコストパフォーマンスを計算するエリアがあります。我々の頭の中の資源も、経済的資源と同様に限られているからです。
頭の中には常に、「その行動にかかる労力(コスト)」と「得られる報酬(メリット)」
を天秤にかける機能があります。
それは「前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)」と呼ばれる部分で行われます。
特に、ワーキングメモリや処理速度の特性がある場合、それらの機能を駆使する「勉強する」ことで消費される脳のエネルギー(コスト)は必然的に高くなります。
大人が感じる「ちょっと教科書を開く」ことに使う労力が5だとすれば、そのコストが20にも30にも感じられている子だっているかもしれません。
対して得られるメリットが少なければ、頭の中では「やらない」方が「合理的」だという信号が出されます。
一般に「やる気がない」と呼ばれる状態では、背景でそういった心(脳)の中で起こる、ある意味で合理的な判断が起こっているのかもしれません。
これらのことは、特に、「神経経済学(Neuroeconomics)」における、
「努力に基づく意思決定(Effort-based decision making)」の分野でわかってきたことです。
参考元▼
Walton, M. E., et al. (2004).
Rudebeck, P. H., ... & Rushworth, M. F. (2006).
感情と知的情報処理の仕組み, 小野武年ら(2005)
「やる気」は動いた“後”についてくる
心の仕組みから考える「やる気」については、実は少し厳しいと感じられるかもしれない事実が一つあります。
多くの場合、私たちは直感的に「やる気が出た」から、「行動する」と考えがちです。
しかし、生理学的に考えれば「やる気」はむしろその逆で、「行動する」ことこそがやる気のスイッチを入れる鍵だと考えられます。
「行動する」→(脳が刺激される)→「やる気が出る」ということですね。
なので、誤解を恐れず言えば、何もしていないうちは「やる気が出ない」は当たり前だと言えます。
10代の頃、ある友人から「頑張らなくていいから、やってごらん」と言われたことがありました。
これは行動する前に気負いすぎてやる気やパフォーマンスを損なうより、やる気がなくても気負わず、「とりあえず」やってみたら、意外とできることがたくさんあると気がつかせてくれた言葉でした。
冒頭で出てきた、脳の「側坐核」は、身体を動かしたり、作業を始めたりすることで刺激され、神経伝達物質であるドーパミンを放出し始めます。
心理学ではこれを「作業興奮」と呼びます。
つまり、お子さんが行動する前に「やる気が出ない」と言っている時、脳の仕組みから考えると、それは当然のことなのです。
「動いていないから、スイッチが入らない」のですね。
待っていてもやる気は向こうからやって来ないようです。
小さくても「動く」ことが、やる気のエンジンをかけ、ガソリンが出る蓋をあける鍵になりそうです。
筆者自身も、自宅や仕事で、「片付けをする」やる気が出ない時は「本を一冊動かす」、
返信のメールを返す元気がない時は「メールの内容を読む」と、目的とする行動を小さく分解して考え、”一先ず動き出す”ことを意識しています。
「自分で決める」ことが脳のエネルギーになる
さらにもう一点、「誰が決めたか」も「やる気」にかかわる重要なポイントです。
人から強制された行動よりも、自分で選んだ行動の方が、持続的なモチベーションが高まることがわかっています。
これを「自己決定理論」と言います。
「勉強しなさい」と指示されると、脳はそれを「やらされること(コスト)」と感じ、ストレス反応(コルチゾール分泌)を示します。
一方で、「自分で決めた」という感覚は、報酬系をさらに活性化させます。
参考元▼
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000).
Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. 自ら学ぶ意欲の心理学, 桜井茂男 (2009).
科学に基づく「やる気」の出し方
これまでみてきたことから、「やる気」の仕組みやイメージが何となく変わってきたのではないでしょうか。
それでは、科学的研究に基づく「論理的に考える、やる気の出し方」のアイディアをいくつか考えていきましょう。
① 行動にかかる「コスト」を極限まで下げる(スモールステップ)
脳が「これならコストが低い(楽勝だ)」と判断するレベルまで、課題を小さく分解します。
いきなり「宿題を全部やる」のは、脳にとってコストが高すぎてエラー(拒絶)が出ます。
しかし、 「とりあえず机に座るだけ」 「ノートを開くだけ」 「1問目の日付だけ書く」というように、「行動」を小さく分解して目標設定を下げます。
この方法を、行動分析学では「シェイピング法(形成化)」と呼びます。
「絶対に失敗しないレベル」までハードルを下げ、最初の一歩を踏み出すことで、それだけでも「作業興奮」の作用があります。
まずはハードルを地中からスタートするくらいの気持ちで低く設定するのがコツです。
「やる気」も種まきからですね🌱
参考元▼
Skinner, B. F. (1953). Science and Human Behavior. 行動分析学入門, 杉山尚子 (2005).
② 行動の「報酬」を早くフィードバックする
ドーパミンは「遠くの大きなご褒美」よりも、「すぐ目の前の小さなご褒美」に反応しやすい性質があります。
また、「意欲(やる気)」の神経メカニズムに関して、ケンブリッジ大学のシュルツ博士らの研究(報酬予測誤差:reward pre- diction error)では、「予期せぬタイミング」や、「即時の報酬」が、特にドーパミン系を強く刺激することが示されています。ピンときた方もいるでしょうか。
実は、ギャンブルはまさにそのメカニズムですね。「当たるか外れるかわからない」「結果がすぐにわかる」という構造の中で、依存性を強める仕組みがあります。
特に学習に苦手意識がある場合は、「テストでいい点を取る」という未来の報酬は、結果が不確実な割に時間的に遠くて、行動にエンジンをかける材料になりづらいかもしれません。
そこで、まずは小さなことでも、「行動」と「良い結果」の距離を縮め、脳に「勉強=良いこと」という回路(強化学習)をつくっていきましょう。
・一問解けたら、その場ですぐに「解けたね!」「できたね!」とポジティブな声をかける
・10分集中できたら、好きなおやつを一つ食べる
・できたページに大きな花丸をつける、
など、実際の学習指導でもお子さんに対して、大人がこうした工夫した関わりを行うことで、「勉強を進めていくと良いことがある」という感覚がお子さんの中でも繰り返し思い出されやすくもなっていきます。
参考元▼
Schultz, W. (1998). Predictive reward signal of dopamine neurons.
動機づけと脳内メカニズム, 松本健二 (2005).
③ 「選択肢」を委ね、「自己決定」したという感覚をサポートする
もう一つは、「自己決定」です。「指示」を「質問」に変えてみましょう。
例えば、「勉強しなさい」と言いたい時、
「英語と数学、どっちから始める?」
「15分やる? それとも20分?」
「遊びと勉強、どっち先にする?」
と問いかけてみてください。
これは実際の指導現場でも常に実践しています。すると不思議と、自ら考え学習計画をたて、計画通りに学習を進めることができるお子さんは実はたくさんいます。
「勉強する」というコストの高い行動の決定権を、こちらから下さず、「自分で決められる」コミュニケーションを大人が尊重することで、たとえ内容は同じ学習でも、「自分で選んだ」という感覚を持つことができます。
さいごに
「やる気」は、脳という臓器の中で起こるある種の反応であり、学習ともいうことができます。
「性格」やその子の「根性」の問題とは一概に言えなさそうですね。
だからこそ、理由にあった「方法」で、少しずつコントロールできるようアプローチができるものでもあります。
そう考えると、動かないお子さんの姿を見た時の気持ちが、少し変わりませんか?
「なんでやらないの!」と責めるより、 「今のこの子には、心のコストが高いのかも」
「エンジンを動かすために必要なガソリン(神経伝達物質)がないんだ」と
ニュートラルな「状態」としてその行動をみてみることで、「じゃあ、ハードルをもう少し下げてみようか」 といった冷静で合理的な対処もしやすくなります。
とはいえ、「勉強して!」と言いたくなるのも大人の常ですね💦
そんな時こそ、一呼吸おいて、二人三脚の方法を考えていきましょう!
Michibikiゼミでは、「心の理解」に基づく、一人ひとりに合った論理的な課題解決を大切にしています。
お気軽にご相談ください。
それでは、ここまでお読みいただいてありがとうございました🌱
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